ライターという仕事のあれこれ ~ライタースクール講師の日記~

現役ジャーナリストであり、「月吠えライタースクール」を主催するコエヌマカズユキが、ライターという職業にまつわるあれこれを書いていきます。

伝え方の大切さを書いてみる

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「伝え方が9割(ダイヤモンド社)」という本が、数年前に大ベストセラーになった。もちろん僕も読んだ。内容は、相手に届けたいメッセージがあるとき、伝え方を工夫するだけで、望む結果が得られやすくなる、というもの。

 

(うろ覚えなので若干異なるかもしれないが)例えば相手をデートに誘いたい場合、「デートに行きませんか?」ではなく、「美味しいご飯を食べに行きませんか?」と言い換えるだけで、成功率がぐっと上がる。

 

自分の願望をただ押し付けるのではなく、相手の立場になって、YESと言ってもらいやすい形で伝えよう、ということだ。そのための具体的なノウハウや事例が書かれている。

 

 

伝え方、それはライターとしても、いち社会人として生活を送るなかでも、ものすごく重要である。最近、特に実感した出来事があった。

 

僕は新宿ゴールデン街でバーを経営しているのだが、新型コロナ感染症の影響で、3月末からお店は閉めている。ゴールデン街にはお店が280軒ほどあるが、4月15日現在、開けているところはほぼない。観光地としてにぎわっていたゴールデン街が、うそのように静まり返っている。

 

そうなると、怖いのが火事である。ゴールデン街は2016年、放火による火災が発生し、何軒ものお店が全焼してしまった。本当に痛ましい出来事だった。それ以来、街で歩きタバコやポイ捨てをする人に対し、お店の人やお客さんなど非常に敏感になっていたが、今はどのお店も休業しているため、注意する人がいないのだ。

 

一方で、ゴールデン街を通り道にする人が、歩きタバコやポイ捨てをすることはいまだにある。これではまた火事になってもおかしくない。

 

僕はゴールデン街の近所に住んでおり、お店を事務所代わりに使っているため、ほぼ毎日ゴールデン街に来ている。そのときに、タバコを吸っている人を見かけると、注意するわけなのだが、ここで「伝え方」が大事になってくるのである。

 

突然だが、もしあなただったら、どのように注意するだろうか? 強い口調で注意する、下手で丁寧に注意する、いろいろな伝え方があるが、僕は以下のような順番・内容を心がけている。

 

歩きタバコorポイ捨てを止めてもらうよう伝える

②自分がゴールデン街で店をやっている者だと名乗る

③過去にゴールデン街で火事があり、大惨事になったことを伝える

④再度、歩きタバコやポイ捨てを止めてもらうよう伝える

⑤納得してくれたらお礼を言う

 

実際、何人のもの方に注意したが、チンピラ風の人も含め、皆さん素直に応じてくれた。実は上記には、僕がライター業でも使っているテクニックが多分に含まれている。

 

①が最も重要なメッセージではあるが、ここだけを伝えても、相手は納得してくれづらいだろう。②で「who(何者か)」を伝えることで、僕がこの街の関係者であり、「あなたに注意をする資格がある」ということを明確にする。そして③で「whyなぜか」を伝え、「だからここでタバコを吸ったらダメなんだ」と理解してもらう。そして⑤でお礼を伝えることで、お互い気持ちよく終わらせているのだ。

 

ちなみに口調や態度は、ケンカ腰ではないが、かといって下手過ぎでもない。真摯かつ誠実に接するようにしている。必要以上にペコペコして、「ここまでお願いされたら仕方ねえなあ」と聞き入れてもらうのではなく、あくまで対等な立場で、メッセージを明確に理解してもらったうえで、歩きタバコ&ポイ捨てを止めてもらいたいからだ。

 

ということで、伝え方のコツや構造を理解すれば、ライター業だけでなく、日常生活も便利で豊かになるに違いない。

「これ、おかしくね?」に気づけるか?

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物書きになってからしばしば、取材やイベント出演などの依頼をいただくようになった。謙遜でも何でもなく、僕は人としてもライターとしても凡庸だと思っているので、お声がけしてくださるのは非常にありがたいことである。条件はあまり気にせず、基本的にお受けさせていただくのだが、「ふざけんな!」と激怒しながらお断りしたことがある。

 

依頼してくださったのは、起業したい人向けにスクールを運営している会社の方。物書き業のほか、文壇バーの経営などを行っている僕がユニークだということで、生徒に向けて講義をしてくれないか、とメールが届いたのだ。

 

メールを見て4秒で、僕はお断りすることを決めた。こみ上げる怒りをこらえて、返信メールを打ったのを今でも覚えている。その理由について説明していこう。

 

①僕のことを表層的にしか知らないのに?

担当者は、ネットなどで僕の活動内容を見て、面白いと思ってくれたらしい。その点については、大変光栄である。ただし、講師として登壇依頼をするとなると、話が違ってくる。受講料を払って起業を目指している生徒たちの、本当に役に立つ話をしないといけない。

 

それなのに担当者は、僕と面識がない状態で、さらにうちの会社の経営状態も知らず、オファーを出してきたのである。これがどれだけ無責任なことか!

 

もし僕が逆の立場だったら、アポを取り、文壇バーに行くなどして、まず直接会うだろう。どのようなお店なのか、お客さんはどのくらいいるか、などを自分の目で確かめる意味でも。そのうえでいろいろ話を聞き、収支の状態にもしっかり踏み込んでから、正式に講師の依頼をする。

 

会社経営がボランティアでない以上、利益を出して継続的に事業を続けることは、非常に重要だからである。「面白そう」という表層的な情報だけで判断し、このような重要なオファーをすることは、怠慢というほかない。

 

②その条件と一文はおかしくない?

その担当者から提示された条件は、「無償」だった。営利目的でないなら、僕は無償でも喜んで対応する。ただし、生徒からお金は取っておいて、講師に対して無償というのは、虫が良すぎる話である。さらに、提示された契約内容に、驚くべき一文が書かれていた。

「登壇いただくにあたり、広告費などは一切発生しません」。

ふざけんな、である。謝礼がないだけでもアウトなのに、「あなたからお金をいただくことはしませんよ」とぬけぬけと書いていることに、このうえなく厚かましさを感じたのだ。


この2点がネックとなり、僕は依頼をお断りしたのだった。理由を説明するのもしんどいので、ただ単にNGということを告げた。すると、担当者からものすごく丁寧な文面で、「承知しました。また機会がございましたら、何卒よろしくお願いいたします」という返信があった。嫌味ではなく、本心からそう思っていることが伝わってきた。

 

そう。この担当者は(恐らく)まるで悪意がなく、非礼を働いているという自覚もなく、僕とやり取りしていたのだった。メールの文章を見ると、素直で誠実な人柄なのだと思う。それなのに、会社が決めたおかしなルールや方針、やり方を疑うことなく、仕事をしていたのである。

既存のシステムが正しいとは全く限らない。違和感に気づく力。疑問を持てる力。目指すゴールに対し適切か、適切でないか判断する力。どうすれば改善できるか考える力。こういった感覚を養う大事さを、僕は改めて思い知らされたのだった。

駆け出しのライターだったころ、ある制作会社から仕事をもらえるようになった。だが、具体的な内容は割愛するが、その会社は非常に無茶ぶりが多かった。最初、僕は「これがライターの仕事では普通なんだ」と思って対応していたが、どうしても違和感をぬぐえない。収入源を失うのは痛かったが、僕はその制作会社との取引を止めた。

 

振り返ると、当時の自分の感覚は正しかった。少々強引にまとめるが、「マジでおかしくね?」と感じることは、業界や職業がどうこうではなく、おかしいことがほとんどなのである。フリーランス、会社員問わず、この「おかしくね?」に気づける感覚は身に付けるべきだ。そうでないと、破綻した仕組みのなかで、ずっと酷使されることになりかねないからだ。

 

最後に余談だが、僕は冒頭のスクールで、講師を務めるのもアリだったと思う。そして、起業を目指す生徒たちの前で、一連の経緯を説明し、「こんなスクールに通ってもいい経営者になれませんよ」と講義をするべきだったのかもしれない。

ライタースクールは詐欺なのか?

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2019年10月に、とあるライターがこのようなツイートをした。

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もちろん僕は、意義もニーズもあると信じているからこそ、ライタースクールを主催している。ただ、同氏の意見には必ずしも反対ではない。

 

僕自身、大手ライタースクールに通っていたことがある。ほかのそこそこ有名なライタースクールに通っていた人の話も聞いたことがある。それらの内容を踏まえて、中立な視点で考察したい。


僕が通っていたスクールは、週2回、半年にわたって講義が行われ、毎回違う講師が特化したテーマについて教えてくれるというもの。出版業界を広く網羅する内容だったため、ときには「これ必要か?」と思う回もあったし、「単なる講師の自慢話じゃん」という回もあった。だが、全体的には満足している。なぜなら、僕は「十分に元を取った」という自負があるからだ。

 

ライタースクールが提供するのは無形商材であり、フライパンや靴などの有形商材とは大きく異なる。そのため講義の価値は、受け手によって大きく変わる。料金が一律10万円だとしても、人によっては30万円の価値に感じるかもしれないし、1万円にしか感じないかもしれない。スクールによって、方針やカリキュラムは大きく違うが、この点は普遍的である。

 

僕は講義に行った際、必ず一番前の席に座った。もちろん、後ろの席でも講師の話は聞こえるし、ホワイトボードも見える。けれど、お金を払って学びに行っているのに、あえて後ろの席に座る人たちへ「どうして?」という疑問があった。そういった姿勢へのアンチテーゼと、貪欲に学びたいという意思表示だった。

 

実際、前の席に座ると、よく講師から指された。僕と同じような考えの、いつも隣の席になる生徒とも仲良くなった。僕にとっては歓迎するべきことだった。

 

講義が終わった後も、疑問があれば講師に遠慮なく質問した。連絡先を教えてくれた講師には、メールで疑問をぶつけることもあった。何なら、事務局のスタッフにも質問をした。生徒同士の飲み会の幹事も務め、クラス中に顔を売った。そのおかげで、生徒として通っていた現役編集者やライターともつながれた。「骨までしゃぶりつくす」という表現があるが、僕はそのライター講座を髄液まで吸った。受講料の16万円など、安いものだった。

 

逆に受動的な姿勢で、ただ漫然と講義を受けていては、安いと感じなかっただろう。そう言う意味では、冒頭のライターのつぶやきに対し、「500円は安い!」というコメントが寄せられていたが、ワンコインだからと言って決して安いわけではないのである。

 

ライタースクールは、魔法ではない。通っただけで成長する、夢や目標に向かって近づく、ということはありえない。自ら学ぶ意思がないと、ほぼほぼ意味はないのだ。

 

明らかに詐欺的な内容のスクール、例えば実力が極端に乏しい講師陣や、ずさんかつ誠意のない運営、小手先のテクニックしか教えない講義など、スクールの質がどうしようもない場合は、いくら積極的に学ぶ姿勢を持っても、元は取れないかもしれない(ライター氏の言う「詐欺」とはこういったスクールを指すと思いたい)。

 

しかし、ある程度まともなスクールであれば(ここには月吠えライタースクールも含まれると自負している)、通う本人の意思によって、料金以上の価値を享受することは十分に可能なのである。そう、ライタースクールが役に立つかどうか、自分を成長させてくれるかどうかは、本人の意思や姿勢にほかならない。

 

「そんなにガツガツしたら、スクール側に嫌がられるのでは?」
そう思う方もいるかもしれない。

 

ここで講師の目線に戻る。月吠えライタースクールは、まだ立ち上げたばかりで、運営も最小限の人数で行っている。仕組みが整備された大手スクールと比べると、至らぬ点がまだまだあるかと思う。

 

一方で、すべてをマニュアル化することはしたくない、と思っている。最低限のルールは設けつつ、本気で講義を受けてくれて、何かを得ようとする方には可能な限りお応えしたい。

 

僕も駆け出しのころ、そうそうたるライターの方たちに会いに行き、時間をとってもらい、貴重なお話を聞かせてもらったものだ。あのとき、先輩たちが損得抜きに対応してくれた経験を、今度は必要としてくれる人たちにお返ししていきたい。

 

スクールという仕組み上、どうしても料金が発生し、最低限のルールはもうけさせていただくのだが、そのなかで可能な限り、皆様に向き合っていきたい。遠慮は不要で、質問や要望はいくらでもぶつけてほしい。むしろ、そういう方にぜひ受講いただきたいと考えている。

 

最後に追記。僕が通っていたライタースクールは、僕がとっていたようなガツガツする姿勢を「大歓迎」とおっしゃっていた。オペレーションだけを考えたら、この言葉は出てこないだろう。何とも懐の広いスクールであると、感嘆したものだった。