ライターという仕事のあれこれ ~ライタースクール講師の日記~

現役ジャーナリストであり、「月吠えライタースクール」を主催するコエヌマカズユキが、ライターという職業にまつわるあれこれを書いていきます。

「これ、おかしくね?」に気づけるか?

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物書きになってからしばしば、取材やイベント出演などの依頼をいただくようになった。謙遜でも何でもなく、僕は人としてもライターとしても凡庸だと思っているので、お声がけしてくださるのは非常にありがたいことである。条件はあまり気にせず、基本的にお受けさせていただくのだが、「ふざけんな!」と激怒しながらお断りしたことがある。

 

依頼してくださったのは、起業したい人向けにスクールを運営している会社の方。物書き業のほか、文壇バーの経営などを行っている僕がユニークだということで、生徒に向けて講義をしてくれないか、とメールが届いたのだ。

 

メールを見て4秒で、僕はお断りすることを決めた。こみ上げる怒りをこらえて、返信メールを打ったのを今でも覚えている。その理由について説明していこう。

 

①僕のことを表層的にしか知らないのに?

担当者は、ネットなどで僕の活動内容を見て、面白いと思ってくれたらしい。その点については、大変光栄である。ただし、講師として登壇依頼をするとなると、話が違ってくる。受講料を払って起業を目指している生徒たちの、本当に役に立つ話をしないといけない。

 

それなのに担当者は、僕と面識がない状態で、さらにうちの会社の経営状態も知らず、オファーを出してきたのである。これがどれだけ無責任なことか!

 

もし僕が逆の立場だったら、アポを取り、文壇バーに行くなどして、まず直接会うだろう。どのようなお店なのか、お客さんはどのくらいいるか、などを自分の目で確かめる意味でも。そのうえでいろいろ話を聞き、収支の状態にもしっかり踏み込んでから、正式に講師の依頼をする。

 

会社経営がボランティアでない以上、利益を出して継続的に事業を続けることは、非常に重要だからである。「面白そう」という表層的な情報だけで判断し、このような重要なオファーをすることは、怠慢というほかない。

 

②その条件と一文はおかしくない?

その担当者から提示された条件は、「無償」だった。営利目的でないなら、僕は無償でも喜んで対応する。ただし、生徒からお金は取っておいて、講師に対して無償というのは、虫が良すぎる話である。さらに、提示された契約内容に、驚くべき一文が書かれていた。

「登壇いただくにあたり、広告費などは一切発生しません」。

ふざけんな、である。謝礼がないだけでもアウトなのに、「あなたからお金をいただくことはしませんよ」とぬけぬけと書いていることに、このうえなく厚かましさを感じたのだ。


この2点がネックとなり、僕は依頼をお断りしたのだった。理由を説明するのもしんどいので、ただ単にNGということを告げた。すると、担当者からものすごく丁寧な文面で、「承知しました。また機会がございましたら、何卒よろしくお願いいたします」という返信があった。嫌味ではなく、本心からそう思っていることが伝わってきた。

 

そう。この担当者は(恐らく)まるで悪意がなく、非礼を働いているという自覚もなく、僕とやり取りしていたのだった。メールの文章を見ると、素直で誠実な人柄なのだと思う。それなのに、会社が決めたおかしなルールや方針、やり方を疑うことなく、仕事をしていたのである。

既存のシステムが正しいとは全く限らない。違和感に気づく力。疑問を持てる力。目指すゴールに対し適切か、適切でないか判断する力。どうすれば改善できるか考える力。こういった感覚を養う大事さを、僕は改めて思い知らされたのだった。

駆け出しのライターだったころ、ある制作会社から仕事をもらえるようになった。だが、具体的な内容は割愛するが、その会社は非常に無茶ぶりが多かった。最初、僕は「これがライターの仕事では普通なんだ」と思って対応していたが、どうしても違和感をぬぐえない。収入源を失うのは痛かったが、僕はその制作会社との取引を止めた。

 

振り返ると、当時の自分の感覚は正しかった。少々強引にまとめるが、「マジでおかしくね?」と感じることは、業界や職業がどうこうではなく、おかしいことがほとんどなのである。フリーランス、会社員問わず、この「おかしくね?」に気づける感覚は身に付けるべきだ。そうでないと、破綻した仕組みのなかで、ずっと酷使されることになりかねないからだ。

 

最後に余談だが、僕は冒頭のスクールで、講師を務めるのもアリだったと思う。そして、起業を目指す生徒たちの前で、一連の経緯を説明し、「こんなスクールに通ってもいい経営者になれませんよ」と講義をするべきだったのかもしれない。